- 著者
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野村 朋
- 出版者
- 大阪健康福祉短期大学
- 雑誌
- 創発 : 大阪健康福祉短期大学紀要 (ISSN:13481576)
- 巻号頁・発行日
- vol.5, pp.103-110, 2007-03-05
筆者はある保育園の「気になる子ども」の保育実践検討会に定期的に参加し、衝動性が高く、言語による自己調整に課題を持つD児の3歳11か月から6歳4か月の成長の過程を、3・4・5歳児クラスでの2年半の保育実践を通して振り返り、Dを含めた集団保育のあり方を検討した。本稿は検討会での議論をもとに筆者が分析を加えたものである。Dは、友だちとのかかわりを求めているものの、自分の思い通りにならないことがあるとカッとなって暴れてしまう、外界の変化に過敏で不安定になってしまう、といった課題を持っていた。3・4歳児クラスの保育実践において、環境の整理をし、視覚的手がかりを活用するなどの個別的配慮を行った。加えて保育者との安定した人間関係を築いた上で、少人数グループでの取り組みや, Dの得意なことを集団保育に取り入れ、仲間の中での肯定的な自己認識を育てていく中で、5歳児クラスの半ばには、衝動的な傾向は残しつつも自己コントロールしようとする姿が見られるようになった。さらに重要な視点は、保育者がていねいに他者認識を広げ、集団内におけるお互いの思いをつなげる働きかけを重視したクラスづくりをすすめたことである。Dの暴力的な行動の背後にある思いを汲み取れる仲間関係を育てていったことがDの発達的変化と集団内での自己肯定感を保障した。